【融資の概況】
運送業
売上:6億円
利益:500万円
リース債務:7億円
創業5年
トラックが増えれば仕事が増える。
100台を超えれば大手荷主から直接、発注が受けられる。
直接、発注が受けられれば利益率が上がる。
明確なビジョンを持っている社長。会社の発展は間違いない?!
でも、ちょっと待って!
売上は6億円あるけれど、利益は500万円。トラックが増えるほどリース債務は増えていく。いつかは資金繰りに行き詰まってしまう。なんとかしなければ。
トラックのリースは5年。10tトラックの価格は約1,800万円。返済額は1台年間360万円。10台増えるだけでも年間の返済額は3,600万円増える。すでに利益を超えている。
「これ以上は無理です」と止めても「ごめん、買ってきちゃった」と社長がトラックを買っちゃう。
あなたならどうする?
結論:リース債務7億円を銀行借入に借り換えた。
積み上がったリース債務7億円を5年で返済するとなると年間1億4,000万円。銀行借入に借り換えて返済期間10年に変更することで、年間の返済額を7,000万円にできた。
リース債務を銀行借入に借り換えたのは、なんと“日本初”。
トラック(運送事業用の大型乗用車)の法定耐用年数は5年だから、10年の借り換えなんて無理でしょう?普通はね。
しかし、トラック協会によると、10tトラックは100万kmまで元気に走る。10年間は問題なく使えるというデータがあり、データを金融機関に提出すると合理的に成立すると認めてもらえた。
やったことがないからやれないと判断されていたことができてしまったという事例。
なぜ可能にできたのか?
一つは会社の将来性。
トラックを増やしてもドライバーが集まらなければ運送業は成り立たない。ところがこの会社はトラックを増やすほど人が集まる。私が出会った当初は創業5年。そもそも持っているトラックがなかったから、新しいドライバーは新しいトラックに乗ることができる。もちろん社長の人柄もあった。明確なビジョンを持っている社長で、自分なら成功するという強い気持ちと、勢いがあることも大きな要因の一つだった。
もう一つはトラックの担保価値。トラックは転売できる。
ABL(アセット・ベースト・レンディング)、いわゆる動産・債権担保融資を活用したこと。4行から5行の協調融資によるシンジケートローンで、通常は1台ずつ組むリースを50台ほどまとめて借り換えることで実現できた。
資金繰りが改善され、今ではトラックは180台、社員200名に増え、6億円だった売上が、その翌年12億円、さらに翌年16億円、今年の10月決算では25億円を予定している。さらに売上40億円以上の会社をM&Aする予定であり、8期目で売上70億円になろうとしている。
しかし、残念なことに、今期の決算は赤字が確定している。
トラックは法定耐用年数5年、リースの場合は定額法で減価償却するため、会計上は必ず費用がかかる。
減価償却費も含めて利益を出さなければならないが、資金繰りが改善され、手元の資金でトラックを増やしてしまい、会計上は過剰な設備投資となってしまった。
グループ会社にトラックを売却するなどの方法で、なんとか赤字を2,000万円までに抑えたこと、来期は1%の利益を出すと経営者が約束したことで、銀行からある程度の評価は得られたが、赤字は1期でも絶対だめ。この反省をもとに来期は絶対に赤字にはできない。
そこで今日の格言。
融資と投資は紙一重。
赤字は1期でもだめ。だけれど、利益を出す努力、社長の姿勢はきちんと評価される。
業績が上がっていくか、安定している企業にしか銀行だって融資はしたくない。
経営者として明確なビジョンを持って会社や事業の将来性を語れるようになることが大切。
この会社の社長は数年後の上場を目指している。